雨音や太鼓など「これこそ八丈島の音」を楽曲へ。
MIZが探求する“音風景の描きかた”と、故郷への想い
雨音や太鼓など「これこそ八丈島の音」
を楽曲へ。MIZが探求する
“音風景の描きかた”と、故郷への想い
東京から飛行機で約1時間、大型客船で最短10時間半ほどかけて到着できる島・八丈島。北西の八丈富士と南東の三原山という2つの火山によって形成されており、牧場や植物公園、海まで流れ込んだ溶岩が固まってできた独特な海岸線などが魅力の島です。
ロックバンド・MONO NO AWAREのメンバーとして活動する玉置周啓さんと加藤成順さんは、じつは東京・八丈島出身。ふたりはアコースティックデュオ・MIZとしても活動しており、これまで2枚のアルバムをリリースしてきました。
そんなふたりが、生まれ故郷である八丈島でフィールドレコーディングをおこない、オリジナル楽曲を制作。八丈島の空気と共に録音された歌や、“八丈島らしい”雨音、そして「八丈太鼓」「ショメ節」など文化的な音が収録され、4曲入りEP『Echoes of the Island』としてリリースされました。2025年秋の台風被害のなかで進められた制作の背景や、ふたりの八丈島への想いをお聞きしていきます。
MIZ
MONO NO AWAREの八丈島出身、玉置周啓(Vo.)と加藤成順(Gt.)によるアコースティックユニット。聞き手のある場所の思い出、匂い、音にリンクするような楽曲をコンセプトに制作している。ある音楽を聴いて、風の吹く草原を思い浮かべる人もいれば、かつて住んでいたアパートを思い出す人もいる。それは、耳にした場所が旅先なのか、平日の最終バスなのかというのも関係しているかもしれない。だから、MIZは、さまざまな土地を訪れて写真を撮ってもらったり、もっと誰かの生活に寄り添うような空間で演奏をしてみたりする。そうすれば、僕らの音楽を聴いて思い浮かぶ映像が、めくるめく変わっていくと思うのです。
「音から現れる情景」への執着。
MIZの創作背景にある八丈島の存在
MIZのお二人は旅行や旅をするのがお好きですか?
加藤成順(以下、加藤):僕は休みの日は必ず遠出するようにしてます。東京にいるとどうしても情報が多くて頭がいっぱいになってしまうので、車を借りて、静岡や千葉、群馬の方に行ったりしてます。MONO NO AWAREのスケジュールが結構たくさん入っているんですけど、「とにかく空いている日は行ってしまおう!」と。
バンド活動を通じて全国や海外にも行かれているので、家のなかでゆっくり休みたいという方もいらっしゃると思いますが、逆に外に出たいと。
加藤:そうですね。むしろそちらのほうがリフレッシュになってます。
玉置周啓(以下、玉置):僕はもともと学生時代に海外旅行に行くのが好きだったんです。たぶん最初に行ったのはヨーロッパで、友達と一緒にイギリス、フランスとかをバックパックで回っていました。その後も同じメンバーでトルコや東南アジアなど、毎年行き先を変えながら旅行していました。
最近はバンド活動もあって、あまり旅行には行かなくなりましたけど、成順が休みの日の時間の使い方がうまくて、少し刺激を受けていますね。最近は外に出てみようと思って、釣り竿を買って釣りに行ってみたり、ゴルフを始めたりしてます。
どこか土地を目指して旅に出るというよりかは、何か趣味をするために外に行く感覚なんですね。
玉置:そうですね。なので出かけるきっかけを、自分の中でちょっとでも増やしておきたいという気持ちはあります。
MIZとしては、ベトナムでフィールドレコーディングしたアルバム『Ninh Binh Brother’s Homestay』でデビューされています。活動はどんな経緯で始まったのでしょう?
加藤:もともとカメラをやっていて、八丈島を撮ったモノクロ写真展を東京で開催したんです。実際に行ったことがある人には、モノクロではなく色がついて見えるかもしれない。行ったことがなくても、何ともない道が故郷の景色にリンクするかもしれない。そんな意図を込めていました。その時に「音楽でもそんな表現ができないかな」と考えたのがMIZの始まりでしたね。
玉置:その話を聞いたとき、僕も同じような体験を思い出して、すぐに共感できました。ヨーロッパを旅していて、フランスからドイツに向かう高速鉄道に乗っていたとき、トンネルを抜けた瞬間に雄大なアルプスの景色が現れて、とても感動したんです。
その半年後にたまたまKings of Convenienceを聴いたとき、まさにその景色がよみがえってきて。もうイントロのアルペジオ三音目ぐらいで、その情景に到達したんです。この「音楽を聴いたときに、過去に見た景色が浮かび上がる」という体験が興味深くて、強い執着が芽生えたというか。自分にとって「いい音楽」を判断する要素のひとつになっていました。
例えば、ある歌詞を聴いて「桜って綺麗だよな」と思う感情と、あるアルペジオを聴いて「なぜか桜の木を思い出してしまう」というのは、全く別の回路だと思うんです。僕らはその後者に興味があって。音楽で既存の世界を再現するんじゃなくて、先に音楽があって、それに誰かが過去の景色を投影するような現象を、MIZとして模索しています。
加藤:だから1stアルバムをベトナムでレコーディングしたのも、ベトナムを感じてほしいわけじゃないんですよね。
玉置:学生のときにベトナムを訪れて、涼しいけれど湿度があって、それが八丈島の空気に似てると思ったんです。そういうアジアの湿度みたいなものから、聴き手の情景にアクセスできないかと思って、アルバムを作りました。
台風被害の時期に渡航。
音楽だから、無力なものに接続できる
今回「八丈島の魅力を伝える」という企画のオファーがきて、お二人は最初どのように感じましたか?
加藤:今回の企画をオファーされなかったら、「八丈島でMIZの録音をしよう」とはなかなかならなかったと思います。
玉置:僕らが帰って録音したら、結局「思い出の再現」になってしまうんじゃないかと思ってて、さっきも話したMIZのはじまりやコンセプトもあってやらずにいたんです。でも今回のオファーで、改めて「僕らがどう八丈島を描くべきか」を真正面から考えるきっかけになりました。
制作時期に台風が島を襲いましたが、お二人は八丈島へと向かってフィールドレコーディングを行われたと伺いました。その時の気持ちを教えていただければ嬉しいです。
加藤:僕は「行きたいな」と思っていました。「音楽だからできる、ちょっとした光」になれればいいなと。逆にいうと、SNSを通じて言葉にするのはどうも僕は苦手で、僕なりに音楽でできそうなことがあればやりたいと感じてました。
玉置:最初に情報を耳にしたとき、普通に無力さを感じてましたね。僕はSNSをとおして発信をしましたけど、過剰に言葉を投げかけるのが好きじゃなくて、募金の呼びかけをして終わったんです。MONO NO AWAREのほうはライブの予定があったので、かなり葛藤もありました。
ただ、このMIZとしての制作は、むしろ今行くべきだなと思いました。それこそ台風に触れずに、マスキングされた「八丈島の魅力」を発信するのは違うというか。
行政や観光協会は、役割としても「今は来ないで」と言わないといけないと思うんです。でも、個人店はXで「来てくれ」って発信している。だからこそ、僕らのような音楽を通してなら、そんなにマイナスなイメージにならずに八丈島のことを伝えられるかもなと感じました。そういう意味で、音楽は、めちゃくちゃ無力なものに接続できるものだと信じたいですね。
「これこそ八丈島」な寂しさと
かつての思い出が詰まった「ばったり」
そうして制作に臨んだところ、1曲制作をオファーしていたはずがなんと4曲入りのEPとなったとお聞きしました。どういった流れで4曲入りのEPへと制作が変わったのでしょう?
加藤:いちリスナーの目線になったとき、1曲じゃとてもじゃないけど「八丈島」が伝わりきらないなと思ったんです。せっかくのチャンスだしやっちゃおう!と(笑)
フィールドレコーディングや太鼓の曲も入れたんですけど、「こういう音楽の楽しみ方がある」というのを提示したいという気持ちもありました。
1曲目「ばったり」について、デモの制作から実際の音源として仕上げていく時に、どういうところをポイントにして制作しましたか?
加藤:僕がコードとサビのメロディと、サビ終わりの「フーフー」っていうコーラスを出したんです。あんまり八丈島のことを意識はしないで自然と作ったんですが、そのメロディーを聴いた時に、陽気だけどちょっと寂しさがある感じが島に合うんじゃないかなと思ったんです。
八丈島に“寂しさ”、ですか?
加藤:八丈島といえばやっぱり夏がいちばんのシーズンなんですけど、収録に行った10月ごろの八丈島って、風も強いし木も枯れはじめてて、すこし寂れている空気感があるんです。
玉置:僕も10月くらいの八丈島が好きなんですよ。観光客も減っていて、「これぐらいの人しかこの島には住んでなかったんだな」と実感する時期というか。町全体が枯れていくようなあの感じ。海と風鳴りの音しか聞こえなくて、「これこそ八丈島だよな」という感じがします。
レコーディングは、ホテルのレストランと外に置いたフィールドレコーディング用のマイクで収録したそうですね。
玉置:そうです。窓もたくさんあって、外の景色も見えて、窓を開くこともできたんですよね。最初は出身者としての思い入れもあるせいか、外を含め場所を決めかねていたんですが、当日の天候もあって、このスタイルになりました。結果的に、フィールドレコーディングに近い状態で収録できましたね。
加藤:明確にここで録ろうみたいに決めきらず、収録へ向かったのを覚えてますね。
なるほど。ところでこの曲、途中で「雅朗(まさろう)」という言葉が出てくるんですが、こちらは?
玉置:じつはレコーディングしながら歌詞も決めたんですけど、歌詞を仮で歌いながら、ちょっとずつ変えつつ収録したんです。その途中でノリで「雅朗」っていう友達の名前を出したらすごくハマっちゃったんですよ。
彼は学生の頃の友達なんですけど、とあるロックバンドの曲に「She’s Gone」ってシャウトする部分があって、雅朗はすごいドスの効いた声でシャウトしていて、本当に声がデカくて(笑)。八丈富士にその声がこだましてて、みんなで大笑いしたのを思い出したんです。
昔の思い出もそこで思い出したわけだ(笑)
玉置:そうです。僕らからするとむかし馴染みにふっと出会ってしまうことも、ふるさと・八丈島の魅力であり、旅の魅力にもなるんじゃないかと思って採用しました。いちおう彼にも今回の件と楽曲を伝えたら、「いい曲だね」って返事ももらえて、久々に連絡するきっかけにもなりました。
じつはこの部分を聞いたときに、まさに同じバンドの同じフレーズのことを思い出したんですよ。それに自分はこの曲を聞いたときに、風が強く吹いている秋の日に帰宅していたな、なんて。
加藤:嬉しいですね。今回制作していて、「響きがよかったら自由に言葉をいれていいんだな」と感じたんです。思い出を入れるのもありだし、音としても楽しめれば良いんだと。俺らも無理せず自然体で、楽しんでやってるっていう空気感も含めて聴いてもらえたら嬉しいです。
蕎麦屋さんの大将が録った雨音が
本当の「八丈島の音」に感じた
残り3曲は完全にフィールドレコーディングされた楽曲で、2曲目が雨音、3曲目が八丈太鼓、4曲目がショメ節となっています。2曲目はタイトルから察するに、2025年11月15日の12時22分10秒から録音したという意味ですか?
玉置:そうですね。3曲目と4曲目を録らせてもらった蕎麦屋さんの大将に、「もしも雨が降る日があったら録音して送ってもらえると嬉しいです」とお願いして収録してもらったんです。iOSのアプリにPCM録音というアプリがあって、それで録ってもらいましたね。
「雨音を収録しよう」というのは、ハッキリときまったんですか?
加藤:いや、特に「雨音を入れたい」とは話してないんですけど、やっぱり八丈島は雨が多いので、なんとなくそう決まりましたね。
玉置:強いて言うなら、僕の実家がトタン屋根で、寝るときに雨が降ってると、トタンに雨が降る音がすごく心地よかったんです。今でも雨音の環境音を流して眠る夜がありますね。
加藤:面白かったのが、僕もいろいろと環境音を録音したんですけど、"録ろう"という意識があるからかあんまりしっくりこなかったんです。自分の故郷ではあるんですけど、どうしても「異邦者」や「侵略者」というか、「いい風景をハント(狩猟)してやろう」みたいな視点で音を聴いている感じがして。
そしたら周啓が大将さんに頼んでいた雨音の録音が、いろいろとグッとくるものがあってよかったんです。40〜50年ずっと島で暮らしている人が、ただ身の回りの音を録音した音。エンジニアさんも含めて聞いても「これ!」となって、収録が決まりましたね。不思議だったけど、いい流れだったなと思いました。
残り2曲「八丈太鼓」「ショメ節」なのですが、お二人の思い出も含めて、どういったものか教えていただけると嬉しいです。
玉置:八丈太鼓は、ちっちゃい頃から何度もお祭りや祝い事で叩いてましたね。むかしは広いお家だったらだいたい太鼓を持ってたという話を聞いたことがあります。あと高校の授業で習うんですよ。
八丈太鼓は「好きに叩いていい」というルールで、日本でも珍しい「即興で叩いてもいい和太鼓」だそうです。だいたい5、6個並んでいるので、子供でも参加しやすくて。それもあって馴染みがあったので、やはり入れたいなとなりました。
加藤:ショメ節は、祭りのなかでよく歌っているひとがいましたね。盆踊りではだいたいマイムマイムやって、東京音頭が流れて、その後に音楽が止まって、マイクを渡された誰かが島の唄を歌ったり、ショメ節を歌うという感じです。
僕はいまでも、「遠くから太鼓が聞こえてる」という感じを日常生活や旅のなかでたまに感じるんです。太鼓は低音が強いので、島にいるとけっこう遠くまで聞こえるんですよ。今回も太鼓を録音した後に、島の人から「久しぶりに太鼓の音を聞いて元気出た」という声が蕎麦屋に届いたそうです。やっぱり太鼓の響きっていいなと思いましたね。
火山と黒砂の海、シダの群生。
八丈島は「陽気なようで陽気じゃない」
今回の楽曲制作を改めて振り返って、今後のMIZの活動につなげたいと思ったことはありましたか?
玉置:やっぱり音楽だからできる情景の届き方があると思っていて、今後も自分たちだからこそできる地元との関わり方について模索していきたいですね。
今回の「八丈太鼓」や「ショメ節」も、他に音源がちゃんとあるんです。でも、いわゆる「伝統音楽を守ろう」という流れとは別の形で、SpotifyやApple Musicに普通に文化的な音楽が保存されている状態が、僕は好ましいと思っていて。普段MIZの音楽を聴いている人は、たぶんこういう音楽にはなかなか接触しないと思うけど、だからこそ今回の作品を通して触れてもらえると嬉しいですね。
楽曲のほかに、「八丈島への旅」をイメージしたプレイリストも制作されましたが、選曲する上で意識したポイントがあれば教えてください。
加藤:プレイリストは僕が中心になって選曲しました。八丈島の空気を感じられるサウンドや、情景が思い浮かぶような曲を詰め込んでいます。Kings of ConvenienceはMIZのきっかけになったアーティストなので迷うことなくいれましたね。
最後に、今回改めて感じた八丈島の魅力だったり、記事を通して八丈島に興味を持った方へのメッセージをお願いします。
加藤:僕は、八丈島の「陽気なようで陽気じゃないところ」が好きですね。八丈島のビーチは、火山の跡で砂が黒いし大きな岩もあるしで、たとえばハワイみたいな陽気で明るい場所ではないんですけど、ひとりで行ったら落ち着くような場所なんです。さっき言った寂しい感じもありつつ、穏やかに落ち着ける場所でもある。そういうのが魅力だなと思いますね。
玉置:確かに。海もきれいで透き通っているんですが、砂が黒めなこともあって、影がかった青というか、不思議な色合いをしているんです。あとは八丈富士の火口にシダが群生していて、ちょっと陰りがある空気感がすごく好きですね。そういう自然らしい自然を感じたい人にはとてもおすすめです。
草野虹 / 取材執筆
福島、いわき、ロックとインターネットの育ち。 RealSound、KAI-YOU.net、Rolling Stone Japan、TOKION、PANORA、indiegrabなどでライター/インタビュアーとして参加。 音楽・アニメ・VTuberやバーチャルタレントと様々なシーンを股に掛けて活動を続けている。 音楽プレイリストメディアPlutoではプレイリストセレクター(プレイリスト制作)・ポッドキャストの語り手として番組を担当している。
マスダレンゾ / 撮影
1994年11月生まれ。2018年 東京造形大学写真専攻卒業。2020年 個展『Astray』を表参道 ROCKET にて開催し、同タイトルの写真集を発行。MIZ, MONO NO AWARE, PEOPLE 1, go!go!vanillasなど音楽アーティストの写真を撮影している。