「また会おうね」と手を振る声を、楽曲へ。
UYUNIが音で紡ぐ、父島の自然と“心の共鳴”

「また会おうね」と手を振る声を、
楽曲へ。UYUNIが音で紡ぐ、
父島の自然と“心の共鳴”

東京・竹芝から船で24時間かけて辿り着く、小笠原諸島。旅好きなら一度は訪れてみたい、独自の生態系を育む世界自然遺産であり、父島・母島あわせて約2,500人ほどが暮らす亜熱帯の島です。

そんな小笠原諸島の魅力を「音」で発信するプロジェクトが始まり、かつて父島へひとり旅した音楽家・UYUNIさんが、「父島の音」を用いたオリジナル楽曲を制作しました。

旅で出会った人々のあたたかさ、ダイナミックに息づく自然。そして最後に待っていた、今も胸に響く「宝物のような音風景」。「人情に満ちた島」とUYUNIさんが語る父島での1週間の体験は、どのようにして音楽へと変わっていったのでしょうか。現地でのフィールドレコーディング音源とともに、その制作背景をたどると、「音を聴く」という新しい旅の楽しみ方も見えてきました。

UYUNI

東京都在住の電子音楽家。生活や環境に寄り添った音楽をイメージして清涼感のある電子音とピアノで表現。これまで朗読、アート、怪談その他様々なカルチャーとコラボしたあらゆる企画をオーガナイズしてきて音楽をトリガーとしたインスタレーションを展開する。また旅をこよなく愛して旅先でのインスピレーションやサンプリングを元にした楽曲制作やZINEのプロデュースも行ってきた。音楽レーベルmukmuk recordsを運営。世界遺産検定一級取得。

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心の穴を埋めたのは、旅だった。
旅を愛する音楽家 UYUNI の出発点

今回の「音で父島の魅力を伝える」という企画を最初に聞いたとき、どんな印象を持たれましたか?

すごく嬉しかったですね。これまでも旅と音楽を掛け合わせた活動をしてきたので、「ずっとやってみたかったことが実現できる!」と感じました。

たとえば、旅先でフィールドレコーディングした環境音を使って楽曲を制作し、QRコードからその楽曲を聴けるアートブックを作ったこともあります。音楽を通して、旅先の魅力や、自分の感性に従って自由に動く「ひとり旅の楽しさ」を伝えられたらと思っていました。

UYUNIが制作したアートブック「ASOBI BOOKMARK」

世界遺産検定を取得するほど旅がお好きだそうですが、旅好きになったきっかけは?

大阪に住んでいた2008年頃、活動していたインストバンドが急に解散になり、心にぽっかりと穴が開いてしまったんです。そのとき、たまたま出かけた京都の伊根で、舟屋(家の1階部分が船着場になっている特徴的な建物)の絶景に心を打たれました。人も車もほとんど通らない静かな景色の中で、ウミネコの声とさざ波の音が聴こえる。この光景が忘れられず、そこからいろいろな場所へ旅をするようになりました。

その後、父島にも訪れられたのですね。

はい。国内には5箇所の世界自然遺産がありますが、やはり小笠原諸島は最も行くハードルが高くて。他の4箇所にはすでに行っていたので、「どうしても行きたい!」とずっと思っていました。そして2017年、休みがうまく取れたため、満を持しておがさわら丸に乗り込みました。

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戦跡に宿る静寂と波の響き。
24時間かけて辿り着いた「父島の音」

父島はどんな旅でしたか?

とにかく、見たこともない景色が広がっていて、その感動を今でも鮮明に覚えています。原付で240号線を一周したり、ナイトツアーやホエールウォッチングに参加したりして、他では出会えない自然風景や生き物に触れて。島の人もおおらかで、世界遺産としてみんなで島全体を守っていく意識というか、島を大切にする気持ちも伝わってきました。

24時間の船旅や、行き帰りに1週間かかることも、終わってみればあっという間でしたね。普段のひとり旅と比べると制約もありますが、その制約が逆に旅の付加価値になっていると感じました。

どのような付加価値でしょうか?

仕事が忙しくて休みが取りづらく、何事も効率重視な現代人にとって、「24時間かけないと行けない」「1週間いなければいけない」からこその特別感があると思うんです。普段の時間感覚から解放されて、まるで“無敵の時間”を過ごせるというか。

ちなみに、24時間あれば地球の裏側のブラジルに行けると言われていますが、そんな時間をかけて東京都の離島へ行くというのも面白いですよね。

おがさわら丸の甲板にて、美しい青が光る大海原の朝に録音した音。

確かに、船内は無料Wi-FIもなく電波が届かなくなりますし、夜は外に真っ暗な海が広がっていて、世界から切り離された感覚になりますよね。

僕は雑魚寝の席で行ったのですが、夜ご飯を食べ終えるころにはテレビも消えていて。そこから朝までは、“無の時間”でもありましたね。時間の流れがゆっくりと感じられました。

おがさわら丸の船内ベッドにて、常に鳴り続ける低音。UYUNIは「居心地のよさを感じる」と語る。

島での滞在中に、「父島の音」を感じた瞬間はありましたか?

船から降りて歩いていたとき、メジロの特徴的な鳴き声が聞こえてきて、それが最初の印象でしたね。

それから、戦争遺跡として残っている「海軍小港平射砲台跡」。洞窟の奥から海が見えて、波音が静かに響いているんですが、何とも言えない、息を呑むような緊張感があって。宿の方に教わってひとりで行ったんですが、真っ暗でめちゃくちゃ怖かったです。笑

海軍小港平射砲台跡で、洞窟に穏やかに響き続ける波音。

環境的な部分で言えば、人や車が少なく、飛行機も飛んでいないので、自然の音を惜しみなく全身で吸収できるんです。とびうお桟橋ではエイやサメが泳いでいたり、島のすぐそばでクジラやイルカに出会えたりと、日常的にダイナミックな自然に触れられる。本当に、特別な場所だなと思いますね。

夜のとびうお桟橋で、エイや魚が泳ぐ水中を見ながら、飲み終わりに賑わう人たちの声。
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「また会おうね」と手を振る声から生まれた音楽。
思い出の音風景を、未来へと「紡ぐ」

父島への旅で、最も忘れられない瞬間は何ですか?

やっぱり最後の「お見送り」のシーンが色褪せないですね。旅客船は週1本の運行なので、帰りの船が出航するとき、多くの人が港に集まり見送ってくれるんです。その中には、滞在中に出会ったツアーガイドさんや宿の方の姿もあって。

「いってらっしゃい」「ありがとう」と飛び交う声や、太鼓の音、汽笛の響きのなかで、島で過ごした日々を思い出しながら、大航海へと向かっていく。あの時間は、世界中でここにしかない、宝物のような瞬間だと思います。

帰りの船は、行きで同じ便だった人が多いので、自然と“同じ旅を終えた仲間”のような一体感が生まれるんです。島ではそれぞれが自由に過ごしていたのに、このお見送りというフィナーレで感動を分かち合う。まるで同じ映画を観て、その余韻をかみしめながら映画館を後にするような感覚でしたね。

船内の雰囲気も帰りはまったく違っていて、出発のときの静けさとは対照的に、どこか高揚感や幸せな気持ちがシンクロしているようでした。

今回制作された楽曲は、この「お見送り」のシーンを録音した音をメインに用いられていますね。楽曲でどんなことを表現したかったのか、教えてください。

父島の魅力として、「豊かな自然」はもちろん、「島の人々の人情から生まれる感動」も伝えたいと思ったんです。

お見送りで飛び交う言葉には、「また会おうね」という思いが込められていて。誰かの名前を呼ぶ声があったり、「また遊ぼうね」と手を振る子どもがいたりと、人の数だけ心が動く瞬間がある。その熱を帯びた情景を、お見送りの音風景から感じてもらえたらと思いました。

UYUNIが父島の音を取り入れて制作した楽曲「tsumugu」。アートワークは、お見送りのシーンのひとつでもあり、人の熱い想いが力強く伝わる写真としてセレクトされた。

楽曲としては、最終日の夜明けから出航の瞬間までを描いています。夜の山で録音した音から始まり、大村海岸の波打ち際の音、そしてお見送りの音へとつながっていく構成です。

最終日の朝は、いくつものアクティビティや出会いを経て、心が満たされながらも「もうすぐ出発か」と名残惜しさを感じている時間。そこから出航が迫り、やがて船が動き出すまでの感情を音楽で表現しました。

私も聴きながら、お見送りの光景やそのときの気持ちがよみがえってきて、とても心に響きました。まさに父島への旅のエンドロールのようにも感じます。タイトルの『tsumugu(ツムグ)』には、どのような意味が込められているのでしょうか?

「紡ぐ」は、小笠原諸島の「世界遺産登録10周年記念ロゴ」のキャッチフレーズから名付けました。一度も大陸とつながらず、さまざまな動植物や人々が独自の生態系の歴史をつないできた、ということを表現している言葉です。

小笠原海洋センターのウミガメ

そして、小笠原諸島への旅そのものも、人のつながりを“紡いでいく”と思っていて。島を巡っていると、何度か顔を合わせる人がいたりして、自然と心の距離が近づいていくんですよね。普段の旅以上に、自分をオープンにできる空気というか。だからこそ、最後のお見送りのときは「この感動をみんなで分かち合いたい」と思える。

今回の制作を通して、改めて“人のつながりを大切にしたい”という気持ちを実感しました。

「お見送り」の音は、ただ録音した音を聴いたときよりも、楽曲として聴いたときの方が、その情景がより鮮やかに浮かび上がるように感じました。サウンド面では、どのような工夫をされたのでしょうか?

音色としては、シンセのパッド音を1種類だけしか使っておらず、かなりシンプルな構成にしてます。音作りとしては、楽曲の序盤では「もうすぐ終わってしまう」という寂しさを、細い線のようなイメージで表現しています。後半にかけて音域を広げ、低音の重い音を持ち上げていくこと、聴いている人の感情を熱い気持ちへと揺さぶるような流れを意識しました。

砕けたサンゴの「サンゴダスト」が多くみられる大村海岸

確かに、楽曲の最後は別れのシーンでありながらも、光に照らされながら希望へと向かうような印象を受けました。

それがまさに、小笠原諸島への旅のいいところだと思いますね。

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環境音への興味は、一匹のヤドカリから。
旅先の魅力を「録る」ことで見つめ直す

今回のような環境音を取り入れた楽曲や、「アンビエント」と呼ばれるジャンルの楽曲を制作するようになったきっかけは何だったのでしょうか?

奄美大島の加計呂麻島に行ったときの体験がきっかけですね。ちょうど夏の時期で、星空を見たくて海岸沿いの明かりがない場所まで歩いていったんです。空を見上げると、天の川がはっきりと肉眼で見えるほどの満天で。

そのとき、足元から「カタカタ」という音がして、びっくりして見たらヤドカリが歩いていたんです。殻がアスファルトに当たって響くその音は、まるで焚き火のようにあたたかく、心地よい揺らぎがありました。

父島のムラサキオカヤドカリがゆっくりと歩く音

人や車の音がほとんどない離島で、波の音や虫の声、ヤドカリが歩く音が重なって、自然のオーケストラのように聴こえた。「こんな音の世界があるんだ」と心を打たれましたね。ちょうどバンドをやめて、これからの道を考えていた時期でもあり、この体験がフィールドレコーディングや、音階にとらわれない音楽への興味につながっていきました。

実際にフィールドレコーディングをしていて、「面白い」と感じるのはどんな瞬間ですか?

海や山で音を録っていても、「どこでも聴けそうな音だな」と思うこともあるんです。でも、ときどき「今この場所、この瞬間にしかない音が録れた!」と感じることがあって。

東平アカガシラカラスバトサンクチュアリで朝に収録した音。陽が差してメジロがさえずり、海風で葉が揺れてオガサワラゼミが鳴き止む様子を収録できた。

たとえば、鳥のささやき、風の音、葉の揺れ方などが合わさって、オーケストラのクライマックスのような高揚感を生むタイミングがあるんです。そういうときは「来てよかったな」と心から思いますし、その感動を音楽で伝えたいという気持ちが、次の楽曲づくりにつながっていますね。

父島で録音した音の中で、楽曲には使わなかったものの、特に印象に残っている音はありますか?

オガサワラオオコウモリですね。日が暮れると、目を覚ましたコウモリたちがエサを食べに木々に集まってくるのですが、数が増えるにつれて奪い合いが始まって。そのときの、喧嘩のような甲高い「キーキー」という声が印象的でした。夜を楽しんでいるかのようで、「あんなに騒ぐんだ」と驚きましたね。

オガサワラオオコウモリがエサを奪い合い鳴く音

あとは、打楽器の「カカ」の音にも惹かれました。想像していたよりも軽やかで勢いがあり、どこか主張の強さを感じる音で。今後、楽曲の素材として取り入れてみたいと思っています。

小笠原諸島に伝わる伝統的な打楽器「カカ」。録音は、トレッキングルート「岩山」の入り口にあるカカを叩く音。
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旅の記憶を、音楽プレイリストへ。
語り尽くせない父島への思い

楽曲のほかに、「父島への旅」をイメージしたプレイリストも制作されています。どんな視点で選曲されたのでしょうか?

37曲それぞれに、旅の中で感じた感情や出会った風景を重ねて選曲しました。たとえば7曲目、Valotihkuu & Dynastor「Creature Comforts」は、南島に上陸したときの感動を表現しています。

31曲目のBrian Eno「The Secret Place - Remastered 2005」は、戦跡を散策した際に覚えた怖気づくような感覚や、薄暗く静かな光景を思い出させてくれる曲ですね。また、36曲目のmúm「The Land Between Solar Systems」は、島に生きる人々の生命力を感じさせるような曲だと感じ、選びました。

南島は、どういったところに感動しましたか?

まるで“聖域”のように感じましたね。ありのままの自然が残っているのに、植物が生い茂っているわけではなく、見晴らしがよくて、穏やかに受け入れてくれるような優しさがある。

白い砂浜に、色とりどりの貝殻が落ちていたことも印象的でした。子どもの頃に憧れていた“お菓子の宝石箱”のようで、童心に帰るようなときめきを覚えましたね。

1週間の旅となると、語り尽くせないほどの魅力がありますね。最後に、この記事を読んで小笠原諸島に興味を持った方へ、メッセージをお願いします。

僕にとっての父島は「日本でいちばんあたたかい島」です。気温はもちろん、出会う人々の人情が本当にあたたかい。そして、そんな島が東京都にあるということにも驚かされます。きっと一生に残る思い出が刻まれるはずですし、時間さえあれば、ぜひ行ってみてほしいですね。なかなか気軽には行けない場所ですが、だからこそ特別な旅になる。僕の楽曲やプレイリストが、その背中を少しでも押すきっかけになれたら嬉しいです。

石松豊 / 取材執筆・撮影

1991年京都府生まれ。九州大学卒業後に上京。広告代理店と制作会社を経て、2022年に創業期から関わるGerbera Music Agencyでブランドソリューション事業部を立ち上げる。企業プレイリスト制作を中心に、キャスティング、楽曲制作など企業の音楽プロジェクト企画に多数関わる。個人では2018年よりプラネタリウムや重要文化財などでライブイベントを多数企画。2024年からは穏やかな音楽のある生活風景を紹介するWebメディア『Ucuuu』を運営中。

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